東京オリンピック2020

2021年7月23日、金曜日。いよいよコロナ禍で延期になっていた東京オリンピックが始まる。これに際し、数多くあった日本の醜態が後世に残るのかと思うとウンザリするが、記憶として書き留めておく。

この頃、COVID-19のワクチン接種状況は、ようやく40代以下で予約が開始できる状況になり、65歳の高齢者だけが8割以上1回目の接種を終えるも、国全体で言えば23%しか完了していない。ワクチン接種証明で遊園地を解禁するフランスや、全面的に経済活動を復活させるイギリスなどを横目に、同じG7で尚且オリンピック開催国とは思えない進捗だ。


しかし、オリンピック関連の不祥事ニュースに至ってはこれ以上で、枚挙にいとまがない。これまであったものをざっとまとめると以下の通り。

猪瀬直樹 | オリンピック誘致時の元東京都知事 5000万円の資金提供問題、辞職

猪瀬直樹東京都知事辞任 五輪招致の栄光から挫折へ

佐野研二郎 | 20年東京五輪エンブレムに盗作疑惑、デザインを撤回

20年東京五輪エンブレムを撤回、盗作疑惑続くなか

竹田恒和 | 日本オリンピック委員会JOC会長、汚職疑惑

東京五輪招致で組織委理事に約9億円 汚職疑惑の人物にロビー活動も

JOC経理部長 | 電車飛び込み自殺

JOC経理部長が直面していた“財務状況” 電車飛び込み自殺か

森喜朗 | 大会組織委員会会長、女性蔑視発言問題、辞任

h東京五輪組織委の森会長、辞任へ 女性蔑視発言問題で

佐々木宏 | 電通出身のクリエイティブディレクター、開閉会式の総合統括、渡辺直美の容姿侮辱、辞任

「渡辺直美をブタ=オリンピッグに」東京五輪開会式「責任者」が差別的演出プラン

小山田圭吾 | 開会式の楽曲担当、過去の障碍者に対するいじめ告白が拡散、辞任

ht小山田圭吾さん、過去の「いじめ告白」拡散 五輪開会式で楽曲担当

のぶみ | 絵本作家、不適切な言動・逮捕歴、五輪文化プログラム参加辞退

絵本作家のぶみさん、五輪文化プログラムへの出演辞退…腐った牛乳を教師に飲ませるなど不適切な言動

こうした一連の不祥事の背景として、電通の存在までNY Timesは報じている。

The Invisible Hand Behind the Tokyo Olympics

これ以外にもスタジアムの建設問題、COVID-19の水際対策の杜撰さなど、誘致当初から何年もの間に渡って様々な問題があった。この状況を国のトップとして最終的に招いた菅首相に至っては「アスリートの活躍は、若者や子供たちに夢と希望、感動と勇気を与えてくれると確信している。未来を切り開く原動力となる」と繰り返しており、2021年は特に混沌を極めた一年になっている。

菅首相がIOC総会で開会宣言 五輪成功を約束「夢と希望、感動と勇気与えてくれる」


私は政治家やスポーツ選手の言う、”スポーツで夢と希望、感動を与えたい”という表現にピンと来ない。ひとつはスポーツ自体に深い造詣や興味がないからだが、初めてFUJIROCKで圧巻の演奏を聞いたときも、その場に感動こそすれ、夢や希望をもらったとは思わなかった。

選手が“努力や夢は叶うということを証明したい”ということに付随して、”何か感じとってもらえれば”と続く表現は理解できる。意地悪な書き出しをしたが、先の表現がその趣旨だとも認識している。しかし、”スポーツで夢と希望、感動を与えたい”という言い回しは、一足飛びに自分がそれを与えられる側だと言ってるように感じてしまう。選手は口下手なだけかもしれないが、政治家の発言には扇動しようとする傲慢さを感じないだろうか?

現にここまでオリンピックの為に様々なものを犠牲にし、経済効果の観点からも理屈が通らない無理を現政権は通してきた。後にこの状況がどう報じられているかわからないが、”オリンピックが開催されれば何かが変わる”かのような幻想を、もう多くの人は抱いていないだろう。多くの人が何かを諦めた中、”なぜオリンピックだけは例外なのか?”という疑念を持っている前提を、発言する側は忘れてはならなかったのだと思う。

現在の出場選手達も、その昔、スポーツに感動し、挑戦しようと思った子供達だったかもしれない。ようやく掴んだ晴れ舞台での姿を、次の世代の誰かに見てもらいたいとする気持ちは、スポーツに感動していない私でさえ、少なからず汲み取ることができる。だから、そんな選手達が、望まずとも恵まれた立場にいるかのように、犠牲を強いられた側から疎ましく思われてしまうのは、一方で残念ならない。この状況になったのは、選手の責任でもないからだ。


これらの構造的な問題について、Washington Postが小林賢太郎の解任に合わせて触れている。

Firing over Holocaust joke latest scandal exposing Japan’s elite, critics say

今までどんな不祥事があっても仕方ない、何を言っても意味がないと黙っていられた傾向は、若い世代を中心に少しずつだが変わりつつあるという。とはいえ、日本は現在ジェンダーギャップ120位と人権意識も低く、諦念から投票率も相変わらず低い。今回は、炎上聖火リレーとまで揶揄されるほど色々な膿が出た。これを機会に未来は少しでも良い方に変わっているだろうか? 夢と希望は4年に一度与えられるものではなく、各々が持てるものであって欲しい。そう、努力すれば未来は変えられるのだということを、私達に見せてくれるのがアスリートかもしれないが、それだけ前向きにみんなが東京オリンピックを見られるだろうか?


開会式の当日昼過ぎに、ブルーインパルスが都内の空を五輪飛行としてパフォーマンスをした。5色の飛行機雲が空に輪を描いた。周りを見れば、ビルの屋上から多くの人がそれを見上げている。一体感があり、微笑ましく感じた。”コロナウイルスがなければ、もっと楽しい気持ちで迎えられたのに”という後悔は誰もが尽きないだろう。

後一時間ほどで、曰く付きの開会式とともにオリンピックが始まる。せめて、利権を得た人たちではなく、この五輪に従事した現場の人達や選手の努力が報われることを願っている。